.
「舞台裏で、BtoBから経営管理までIT化」
        〜舞台大道具の(株)グリーン・アート〜
テレビや劇場で目にするきらびやかなステージ。舞台大道具を作る会社が、舞台裏で多角的なIT化を進めていようとは!(株)グリーン・アート社長の松本孝治さん(55)。自ら考え、動き、アイデアを形にするそのバイタリティに4回連続でズームイン。


    大道具会社なのに、アイデアあふれる新製品が続々と

 「この新しい看板をご覧下さい。バックライトで照らし出す電飾パネルなんですが、従来ですとフィルム焼き付けに1枚約10万円かかっていたのが、新メディアで1/5以下でできるようになりました。このように、最新の大型プリンタで出力したサイン関係が新規事業に育っています」。

 箕面市にある本社ビル。松本さんは蓄えたあごひげが精悍で、ちょっと迫力のあるご説明です。「こちらはマグネットポスター。磁石だから剥がしても汚れが残らない。催事会場のエレベータやドアに好評です。市販のマグネットは最大A4サイズなんですが、当社は独自にエレベータの壁一面に貼り付けることも可能な大型版を出力して歓ばれています」。磁石メーカーではないはずなのに、そんな新商品が作れるんでしょうか?
「じつはこれビジネスモールで出合った会社から磁石素材をロールで仕入れて当社で加工しているんです」。

    ビジネスモールを辞書代わりに活用

 BtoBの企業マッチングを支援するビジネスモール。松本さんによれば、ビジネスモールは辞書のように引くものだとか。「これを使えば製造元をスグ検索できる。ここで知り合った会社から仕入れ、組み合わせて販売するという新しい事業の柱を育てることができました。以前は電話帳や出入りしている業者さんの持ってくる情報が頼りだった。いまではビジネスモールが不可欠です」。さっきの大判磁石も、そもそもOLがイラストを書いてロッカーに切って貼るために開発されたものを流用しているとか。
「難点もあるんですよ。最近のエレベータはステンレス。磁石じゃくっつかない」。さて、どうする?「こっちのポスターを見てください。裏面はノリがついていないのに、ほら、ガラスにもプラスチックにもピタッとくっつくでしょ。裏側が細かい吸盤になっているんです。新たに素材探しをした成果です」。磁石でダメなら吸着でどうか追求する。不便の解消をするアイデアほど芽があるそうです。「ホテルで実験中に、試材をエレベータのドアの隙間に落としてしまったことも。アイデア倒れも多々あります。10個創って1個あたればいい。でもとことん追求しないとね」。

    具体的な活用例まで提案しないと

 磁石のポスターを、ある大手の電器メーカーに『冷蔵庫に貼りつけて下さい』と売り込みに行きました。ご担当者の反応は『印刷の方が安いのでは?』。そこで、印刷と出力の違いを説得したそうです。『1枚ごとに出力すれば“○○店長おすすめのポイントはコレ”と店舗ごとに異なる店長名を刷り出せますよ』。このように個別に対応して初めて1枚ごとに刷る強みがでる。「店長の名前が入ってこそ実店舗での親近感・信頼感が得られる。そこまで具体的に提案しないと受け入れてもらえない。そこまでしてはじめてアイデアとなる」そうです。
「ビジネスモールはヒント集です。当社のアイデア会議でも『こんな新しい素材のポスターどうかな』というような提案は色々出ます。でも、『それだけではあくまでヒント段階だよ。アイデアに至っていない』ということが多い。ヒントに具体的な提案をプラスしてアイデアにまで高めることが本当は大切なんです」。まさに1枚うわての新商品提案ぶりです。

    神は細部に宿る

 「宴会やイベントと言えばホテル。最近は経費削減のあおりでイベント演出においてもなかなか舞台大道具の出る幕がありません。そこで考えました。ホテルの立食パーティなどに欠かせないテーブルクロスにプリントして新メディアにしてやろうと。そのためにはビールやジュースのコップから出る水滴で、ホテルの備品を汚してはいけない」。で、どうしたか。
 ●水に強いインクを探す→油性インクを見つけた。
 ●布みたいな感じで単価が安い素材を探す→不織布が見つかった。
「これらを組み合わせて、はじめてこのテーブルクロスが出来上がったんです」。なるほど粘りが必要なんですね。でもこれ、会社のマークがなぜかバラバラな方向を向いていますが。どうしてですか?「立食ですから、テーブルの周囲360度どの位置からもマークが真正面に読めるように考えたんです。提案を通すには、もう一ひねりも二ひねりも細かい部分に至るまで練り上げていかなければなりません。だから私は“神は細部に宿る”という言葉を座右の銘にしています」。

    豊中商工会議所と二人三脚でIT化 

 社内のIT化では、豊中商工会議所にずいぶんお世話になりました。最初はダイヤルアップでインターネットを見ていました」。パソコンは当初マッキントッシュをスタンドアローン(単独)で使って、デザイン描画を支援するCADソフトを動かしていたそうです。「ほどなく商工会議所のアドバイスを受けて、すぐダイヤルアップルータ(接続装置)でLANを組みました。ケーブル、HUB(分岐装置)を買ってきて、プロッタ(描画出力機)のIPアドレス(認識番号)を自分で入れて。その頃、ケーブルにストレートとクロス方式の違いがあるのも知らず経営指導員の東(ひがし)さんと悪戦苦闘したのも今では笑い話ですが」と松本さん。その後、自社ドメイン取得、ホームページ立ち上げ、社員さんにも個別メールIDを発行するなど、豊中商工会議所のISPサービスをフル活用して社内のIT化を一気に進めました。
「一度社内LANを使ってみると、もう便利さの後戻りはできません。ルータが壊れたときいかに不便か痛感しましたから」。

 ◎豊中商工会議所HP  http://www.ooaana.or.jp/


    後発のハンデも、塞翁(さいおう) が馬

 舞台大道具会社は大阪に約50社。グリーン・アートは後発組です。すでに大手劇場は他社に押さえられており参入不可能。当時本社のあった豊中も都心から遠く情報も遅い。大道具絵を描く職人もいない。「絵は外部の専門職人にお願いして描いていました。10年前にコンピュータに出会ってからは、イベント企画会社を中心に営業をかけた。『当社は仕上がりイメージを表現したCG パース画を描くことで役立ちますよ』と。これは同時に社内のIT化でもあったのです」と松本さん。CGパース画作成を売り物に、どんどん事業を拡大。
 ●図面をスグ描ける。
 ●修正もスグできる。
 ●出力機で拡大して絵を出せる。
 ●安くできる。
「絵を描く職人がいないことが逆にプラスになったんです。今までの大道具会社は古い体質で舞台ではいまだに雪駄(せった)をはくほど。他社はここにコンピュータを持ち込むのだから大変。でも当社は社長の指導で有無を言わせず導入。アッという間にみんな使えるようになったんですから」。

    市販ソフトを活用して経営管理

「いままで、支払伝票に単純にハンコを押していました。これ、ストレスがたまるんです。なぜ一社にこんなに払っているのか。実際に儲かっているのか、いないのか分からないから余計不安になって…」今までは丼勘定もいいところだったとか。松本さんは、経営管理をパソコンで行うことになったきっかけを語ってくれました。
「毎回イベント名、つまり販売品名が違う。定価がない。仕入れ外注が数十社に分散。とにかくややこしい。そのため市販のソフトは使えない。経営管理ソフトを自分で作るしかないと思ったんです」。パソコン歴は20年。ソフトは市販の「ファイルメーカー※」を活用したそうです。「ある社員のある月、ある仕事の売上額、仕入額、利益額、利益率が即座に閲覧できます。もちろん、年度別、月別、営業所別、顧客別、催し物別に数値管理もしています。利益率が基準値を下回るとコンピュータが警告表示。イエローカードが本人に渡ります。でも、そのときは単純に怒らず、なぜそうなったのか当初の利益予想と実際の関係を十分に聞くようにしていますが」。

 同社にはアトリエと呼ぶ大道具の工房部門がありますが、そこからの仕入れも算出。「私は以前K化粧品にいまして、その原価管理システムの考え方を応用しています。どの部門でも自社アトリエで製作したものは販売価格の55%でアトリエから仕入れることになります。アトリエはその売上のなかで人件費を計算しています」というから、社内分社そのもの。この結果、社員一人一人の原価意識が各段に向上したそうです。


 ※ファイルメーカー株式会社の登録商標です。

    出るを計りて、入るも計る

「支払い先管理も大切ですが売上管理も気を抜けませんよ。一社が売上全体の20%を超えたら要注意です。その会社が倒れたら共倒れになりかねません。常に数字をつかんでおかないと恐いです。どんなに小さな会社でも他に頼らず独立していなくてはなりません」。同社の場合、もともと親会社的な得意先がなく、頼るところがありませんでした。市民会館管理からスタートし、テレビ局2局の舞台装置、イベント、百貨店・ホテルなどのサイン部門と次々に発展。「結果的にはリスクの分散化ができたと思います。おかげさまで、売上は毎年記録を更新しています。こんな時代に本当にありがたいことです」。見事な経営手腕ですよね。

「経営で心がけてきたのは、自分の得意なジャンルに相手を引き込むこと。私はK化粧品の企画宣伝畑出身で企画が得意。得意分野だから頑張ってアイデアを出せるし、やる気もわきます。いつも思うんですが、経営者の弱気は社員に対しての犯罪行為そのものじゃないかと。社長の役目は元気を与えること。常に社員は強い社長の指導を待っています。経営者のみなさん、ファイトを出していきましょう!」。


このページの上に戻る▲