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「アゲインストのゴルフ界に挑む。」
      〜メーカー・ダイレクトショップ“Side Wedge”
かつてない、完全オーダーメイドのアイアンを製造・販売する新規事業をホームページで始めた男がいます。代表の横野秋雄さん。“Side Wedge”というそのサイトは開設1年を過ぎ、業界・関係者の注目を浴びているとか。はたして“Side Wedge”がめざすものは何か?その挑戦はどこまで広がりを見せるのか?


    かつてない新市場をWebで拓く

 ゴルフ好きな方で、ゴルフクラブについても一家言持つ方は、プロショップなどで自分好みにクラブをチューンナップしています。
ゴルフクラブの流通市場は、大きく分けてプロショップ(個店)、量販店、中古店の3つ。Webショップ“Side Wedge”は、ゴルフ好きな方のために、これら既存の業態ではなく生産メーカーと消費者をWebで直接結ぶまったく新しいメーカー・ダイレクトショップとして、去年の8月に誕生しました。

兵庫県神埼郡市川町。ゴルフクラブ日本発祥の地。川と緑に囲まれた場所に、日本の鍛造アイアンクラブ製造では一目置かれる新進企業・三創ゴルフテクニカル(株)があります。日本のクラブ製造のルーツにつながる由緒正しい民家を改造したその工場では、クラブヘッドを研磨する金属音がひっきりなしに響いています。
“Side Wedge”代表の横野秋雄さん(42)を訪ねたのは、じっとりと汗ばむ大暑の盛り。HPのイメージからは想像もつかない職人の現場という感じです。さっそく、反響について伺いました。

「商品にもよるでしょうが、Eコマースは開設半年ほどの間はお客様がゼロでもおかしくないって聞いていました。最初はお客さんがつくまで辛抱しようなんて言っていた矢先、なんと開設直後にお客さまから問い合わせのメールが舞い込み、トントン拍子に契約が成立。やったー!と叫びました」と横野秋雄さんはいいます。「しかし、その後長く暗いトンネルが続くんですが…」。

    インターネットあってこその新事業

 そのいきさつは後ほど紹介するとして、まずはなぜ、ゴルフ業界に進出したのか、聞いてみました。ゴルフ業界は不況の荒波を浴び、かなりの苦戦を強いられているはずだから。
「確かに、台湾や中国の台頭で、業界の構造が激変しています」。

クラブ製造業界は自社ブランドを持つ大手メーカー傘下の下請けピラミッドが形成されており、近年では製造の海外移転が急進展。その結果、国内のゴルフ製造業は痛手を受け、廃業や倒産も急増しているとのこと。そんな逆風下で、なぜ?
「ひとつは私の信念として、いつかは自分の事業をしたいという思い。だから大手印刷会社を退社し、新事業に賭けました。やるなら、後発でも勝負ができるジャンルで。たまたま兄が日本有数の軟鉄鍛造(たんぞう)アイアンメーカーを経営しており、こことの提携により結果が出せると思ったんです」横野秋雄さんは、熱のこもった口ぶりです。「でも、ゼロから工場や店舗を持つなんて、資金やコネクションに制約があり事実上できないですよ。しかし、Webならできる。そこで、Web上で自分の理想とする“Side Wedge”サイトを立ち上げることにしたんです」。かといって、既存の商品や単なるWebショップでは後発のデメリットは挽回しにくい。「競争力のあるオンリーワン商品として、フルオーダーメイド・ゴルフクラブの受注生産に特化することにしました」。
そのためにはマニアックな情報提供が必要。プロ級のノウハウは兄の横野隆弘さんが担当するとともに、横野秋雄さんも製造現場に乗り込んで修業をすることにしたそうです。「朝8 時から夜9時まで、ずーっと工場。42歳の手習いです。営業マン時代からは想像もできない現在ですよ」。




◆用語解説
  ※アゲインスト:ゴルフ用語で向かい風のこと。
  ※アイアン:14本あるゴルフクラブのうちの10本。
  ※軟鉄鍛造:
  • 鍛造(たんぞう)とは熱した鉄を叩き目的の形状を造ったもので打感のよさがプロに好まれる。
  • 鋳造(ちゅうぞう)は溶かした金属を「鋳型」に入れて製造するもので、大量生産でき安価。






    リアルな現場が信頼を生む

 初めてのお客さまがついたとき、いかがでしたか?
「“Side Wedge”サイトでこれほど早期に受注できるとは、経営する私にとっても驚きでした」横野秋雄さんはふり返ります。
お客さまが注文した動機は?「潜在顧客の中に既存のプロショップでは満足できない上級者がいたんです。それは私の目論見どおりでした。しかし、最大の成功要因は、工場にご案内し、工場で商談するという方法を採用したことにあると思います」。
実際、お客さまは工場で生産される世界的水準の一流品をつぶさに見て「これだけの技術水準があるなら、安心して任せられるね」とおっしゃったそうです。

工場とは、兵庫県神崎郡にある三創ゴルフテクニカル(株)。新鋭企業ながら、加工技術と品質の高さから不況下でも着実な業績を上げており、兵庫県下における軟鉄鍛造(たんぞう)アイアン加工メーカーとして今や業界屈指の存在です。
「Eコマースは、信頼を得るまでが大変だと思います。私の場合資金もなく、サイトの見映えやCGIなどのシステムに凝るより、中身を優先させ信頼度をアピールしました。そして、工場という今まで隠されてきた場所を、逆にショールームとして接客に活用することで、納得体験型の商談ができたのではないかと思います」。

    よきブレーンを得たこと

 拝見しますと、“Side Wedge”サイトは充実した内容ですね。内容も横野秋雄さんがお創りになっているんでしょうか?
「HPにも書いていますが、共同運営をしているスタッフに栗本という者がおります。彼がマーケティングやWebに明るいので、当初の立ち上げのときから一緒に議論し、共同でやっています」。
いま、HPを販売促進の起爆剤にしたいとお考えの経営者が増えています。そのとき、社内の誰に制作を任せるか、外部のブレーンをどう起用するか、このあたりは重要なポイントですね。「そうですね、私の場合は自らが責任者ですから、決裁をうかがう相手はいません。逆に責任は全部自分で負わなければなりません。どんなHPでも、経営戦略と表裏一体をなしていると思いますので、社内でもトップ級の方が陣頭指揮をとるのがいいと思いますね」。そして、「ブレーンにしても、自社の理念を共有できて、提案力のある人材をつねづね育成しておくことでしょうね。外注先にデザイン力やシステム構築力は当然あるとしても理念の共有がなければ、望んだ結果にならないと思います。印刷会社時代にも発注者側としてそれは痛感していました」。




「でも、えらそうなことを言えた立場ではないんですよ」と横野秋雄さん。
幸先の良いスタートとは裏腹に、つらい日々が。当初の手応えに反して、半年経ってもなかなかオファーが増えません。そんなとき…。






    実際の製品が、ない?

 成果が上がらないときの対応は、むずかしいものだと思いますが。
「お客さまからの問い合わせはあるんです。でも、個々のお客さまに会わせたフルオーダーメイドですから、実際の製品があるわけではない。“クラブが見たい”“本当にできるのか?”からかい半分の問い合わせもありました。実際にアイアンを見せたいが、オーダーがないゆえ実物の提示ができないというジレンマに陥ったのです」と代表の横野秋雄さん。
タマゴが先かニワトリが先かではないが、できる技術があってもオーダーがないと実証訴求できませんね。
「お望みのクラブづくり、なんでもやれます。というのが“Side Wedge”の最大の特長。でも、実物がない。説得力がない。それがつらい」。また、一方では提携している三創ゴルフテクニカル(株)の操業が混んできたりして、クラブプロデューサーの横野隆弘さんが現業に追われ、Webでの書き込み停滞や、接客サービスに支障が及ぶこともあったそうです。

    試打用ウェッジの無料レンタル

 技術力をどうやって伝えるか?必要性をどうしたら理解していただけるか?横野秋雄さんが考えたのは得意のサンドウェッジをオリジナルで制作し、希望者に無料レンタルを行い、試打していただく、というストーリー。これなら、店舗がなくても、ショールームがなくても、“Side Wedge”のクオリティの一端に触れていただけます。
「HPで公開したところ、さっそくお申し込みがありました。同時にドワーフ倶楽部という名前で、ファンクラブ的な会員募集をしているのですが、たちどころに5名の会員が集まりました」。
Webの読者は掲示板への書き込みやメールでのアプローチをしない人でも、静かに息をひそめて動向を注視してくれているんですね。
「ありがたいことです。受注にいたる前に、そんなファンづくりを行うことが大切だと痛感しました。だから、会員の方には、表に公表できない有益情報をメールマガジンでお伝えし、せめて感謝の意を表そうと、すでに第1号を発信したんですよ」。




「ウェッジの無料レンタル」という妙手を発案した横野秋雄さん。そのアイデアの成果は、お客さまづくりだけではなく、意外にも「身内」にもあったとのこと。それは…。






    強力な新スタッフ加入

「試打用ウェッジをどうしようか、と悩んでいるとき、助っ人としてジョニィー清水氏が参加してくれることに」。代表の横野秋雄さんは、まるで運命のはからいがあったかのようにそのいきさつを話してくれました。
「ジョニィーはプロ級の腕前を持っており、長期滞在していた韓国では2年間のうちに数十人の韓国人ゴルファーの指導に東奔西走していたのです。彼が“Side Wedge”の運営に参加してくれたことで、クラブづくりの実践が深みのあるものになりました」。
当初、“Side Wedge”の製造面でのサポートは、提携する三創ゴルフテクニカル(株)の横野隆弘氏がこなしていましたが、今後、“Side Wedge”が自立していくためには自分達の間で「プロ水準のクラブづくり」を完結できる能力が不可欠だったのです。「設計中は、工場での仕事が終わると、職人さんを囲んで熱い討論が始まるんです。下請けの仕事ではなく、自分達が創りたい理想のウェッジのために、持論を闘わせる。その真剣さが、偏屈な熟練職人さんにも響き、一生懸命にさせるんです」。
そして、試打用サンドウェッジが完成。「ジョニィーといい、試打用サンドウェッジといい、前向きに攻める大きな手がかりを得た気がします」。


    メーカーのポジションをめざして

 夢は、なんですか?
「すごい質問ですね。うーん、言いにくいことですが、これまで兵庫県の地場産業として栄えてきた軟鉄鍛造(たんぞう)アイアン製造業も、いわゆる下請け的なポジションにいるだけでは、進歩しないと思います。私は“Side Wedge”そして、“DWARF”という名前で、ユーザーから直接受注・生産できる自社ブランドを持つことが大切だと考えています」。
自社ブランドでの挑戦。それは資本にものを言わせて大量宣伝、大量販売をするゴルフ流通のなかでは、苦難が避けられない挑戦です。
「難しいのはわかっています。しかし、HPというユーザー直結のチャンネルがある以上、私達は思い描く理想を発信しつづけたいのです」。 
そのための課題は?
「いまのテーマは、新製品開発。ジョニィーがプランナーとなり横野隆弘氏に技術アドバイザーをお願いして、次の新製品を世に問うていきたいと考えています。フルオーダーメイドという抜本的なソリューションだけでなく、パターや定番ウェッジ、定番アイアンの商品化も視野に入れています」。

そして、もう一つ大切にしたいのは顧客リレーションだそうです。「メールしか窓口がない場合が多く、いかに丁寧にお客さまの真意をつかみお返事するか。私達はモノを売るのではありません、個人個人に最適化したクラブづくりというソリューションを売っているんです。だから、接客の上では“Side Wedge”としてお客さまに役立てることを提案していきたいです」。


横野秋雄さんがポロリとつぶやいた言葉。
「ユーザーに必要とされる存在であることが、私達の存在意義です…」。
その必要性が、もっと広まることを期待したいと思います。



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