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「高速ネット時代のお笑いなら任せてや!」
      〜お笑いポータルをめざす吉本興業の挑戦
“お笑いの総合商社”として、国内はおろかアジア諸国にまで勇名をとどろかせる会社。その名は吉本興業。小学生でも知っている超優良企業が、デジタルコンテンツの蓄積や発信に取り組み始めたことは、意外と知られていません。今やインターネットは当然の時代ながら、2年先3年先の高速ネット時代を見据えた進取の対応はまだまだこれから。吉本興業大阪本社コンテンツ制作チームの上田泰三さんに、新しいサイトへの取り組みぶりを伺います。


    なぜ、インターネット・コンテンツ展開を?

 お笑いのメッカ、難波グランド花月4階の大阪本社。吉本興業公式サイトをはじめ多数のサイトを擁している吉本興業ですが、なぜ、いまインターネット・コンテンツ展開を始めたんでしょうか。
スキンヘッドが個性的な上田さんはやわらい物腰でにこやかに語ってくれました。
「1年ちょっと前、学生さんに対し当社の活動についてグループインタビューをする機会がありましてね。『吉本のサイト観た?』と感想を聞いたんですわ。返答がキツイんです。『もっと笑わしてくれると思うた』とか、『寄席やライブの情報しかないやん』とか。どうやら、吉本の名がつけば、“笑わしてくれる”という期待感があるんやと、ショックを受けました」。
吉本興業としては早くからホームページを開設し、情報発信をしていましたよね。
「漫才、落語、TV番組など、芸人をめぐる情報を深く提供していく情報補完メディアとしてやっていたんです」。
事業案内や会社案内などですね。
「一方、ここのところ、ネットサーフィンしているとFlashやストリーミングなど新しい技法を使って、一般の人がどんどん面白い試みを行うようになってきた。カウンターを見ると何万、何百万というヒット数。これは凄い。目からウロコが落ちそうでした」。

    個人サイトがマスコミをしのいでる!

 「新しい技法や新しいメディアに取り組んでいる若い才能を“お笑いの総合商社”である吉本が“知りませんでした”では、これは通用せんぞ、と。そないに思いまして」。
東京本社のテレビプロデューサーだった上田さんは大阪に戻りコンテンツ部に配属されたばかり。Webの動向も日々発見の連続だったそうです。

「一般の人が作ったサイトが雑誌の公称売れ行き部数より多くの読者を集めてまんねんで。どう思います?個人がマスになることができる。BtoB、BtoC、こういうの何と呼べばええんでっしゃろ、そうやなぁCtoM(Customer to Mass)とでも呼べる新しい流れが始まりつつある」。昔ながらのテレビっ子には革命にも映る立場の逆転現象。そんなWebのトレンドに接したとき上田さんはこう思ったそうです。
「『吉本が新しいメディアをやらんでどうする』という先代会長・林正之助の声が草葉の陰から聞こえたような気がしました。これは新しいビジネスのカテゴリーになるんちゃうか。だから、お笑いポータルサイトを立ち上げようと思ったんです。これから新しい笑いを作りたい人、発信したい人、どんどん吉本興業に集まっておいで。この人にも、あの人にも、吉本がオモロイでっせと太鼓判押してあげられる。おこがましいんですが、『お笑いなら吉本』というブランド力があります。もちろん、吉本としてもゆくゆくは才能をマネジメントできる可能性がありますしね」。




 お笑いポータルサイトであり、インターネット・コンテンツ展開のシンボルとして誕生したサイトの名は、「吉本お笑いタワー」。しかも、建設準備室という隠れサイト(?)があり、ここではマルチメディアクリエーターの自薦他薦を受け付け、新しいお笑い作品を公募しています。吉本の内外を問わずプロ・アマ不問、お笑いのすべてをポータルする金字塔。そんなお笑いタワーをめざし、どのように発進したのか。






    無から有を起こすのは大変だと思いますが?

 吉本興業の未来を担う新たなプロジェクトですね、大掛かりな予算やスタッフをご用意なさったのでは?
「いやいやそんなことありませんよ。会社は『いますぐ儲けにならんもんに予算は出せん』と。ケチでんな。このあたりは、中小企業が置かれている現実と一緒でしょうね。問題は、それでもやらなあかんと決意するかどうか。やらなあかんと決意したら、ほな、どうやって実現さすか。これがプロデューサーとしての知恵の出しどころでしたなぁ」。
上田さんの柔和な語りは、じつに親しみがあり、つい惹きこまれます。
「構想は1年前でした。大阪市のIMEDIOさんにエンジニアやクリエーター専門の相見積サイト《商談上手》があり、それを通して協力者を公募しました。『予算はありまへん』と、はっきり明言してね。しかし、『新しい試みですよ、おもろいアイデアあったら吉本の名のもとにどんどん提案してください。御社の名前も出しましょう。リンクもしてくださって結構。一緒におもろいことを、この愛する関西から出していきましょうよ』。こう言って、協力者を募集したんです」。

    新しい笑いはいつも吉本から

 さすが、そのあたりは商売人ですねえ。
「吉本興業には約90年前の創業当時から進取の気質がありましてね。そもそも寄席小屋しかなかった時代に、春団治が勝手にNHKラジオに出たんです。当時の幹部は、そりゃぁ大剣幕で「なんてことしてくれたんや、そんなもんタダで聞かせたら寄席に来てくれへんやないか」と。
ところが、ラジオを聞いたお客さんが“ナマで聞きたい”と花月の劇場に押し寄せてきた。これがほんまの、“寄せ”や。そこで幹部は気づいたんですな。ラジオはプロモーションになるでと。そんな学習をしてますから、テレビ局が開局したとき、素早く先手を打った。毎日放送が開局したその日に、吉本新喜劇を放送したんです」。

なるほど、新しいものに尻込みすんな、という社風があるんですね。ところで、インターネットへの取り組みは、すでに色々実績を積み上げているんじゃないんですか?
「東京ではKDDIさんと提携して、吉本の芸人が多数出演するコンテンツ提供会社・Fandango!を設立、また東京電力さんと共同でブロードバンドコンテンツの開発、提供を行う新会社・キャスティを立ち上げています。もちろん高速インターネット時代のコンテンツ配信をめざしたものですが、『吉本お笑いタワー』とはちょっと性格が異なります」。




「吉本お笑いタワー」の企画意図は、
<1>吉本のお笑いコンテンツを配信するのは当然として、
<2>お笑いのわかるクリエイターを募集、登録制で面白いコンテンツを制作し発表できる環境を作る。
<3>吉本内外・プロアマ問わずさまざまなお笑いコンテンツをポータルする面白百貨店のようなWEB SITEをめざすこと
だそうです。しかし、それゆえにサイト運営には思わぬ苦労が待ち受けていたとか!






    こんなに手間がかかるとは!

「吉本お笑いタワー」のWebマスターは、どなたがなさっているんですか?
「私です」。
上田さん自ら、読者からのメールにお返事書いたりしていらっしゃるんですか!?
「そうなんですよ。制作会社に外注したりはしていません」。
なにしろ大事な立ち上げ時。他の人に譲るわけにはいかないそうです。

「ほんまの話、自己管理が大変ですわ。TV放送だと〆切があるから、無理してでも時間厳守でやれるんですが、Web はついズルズルと宿題を先延ばししてしまいがち。そうなるとすべてのプロジェクトが進行しませんから、〆切をきちんと守るよう自己管理しないといけない」。
サイトのコンセプトを固める土台の作業から、具体的な画面デザインのチェックまで、やることは山のようにあるのでしょうね。
「メールを頂いたら、お返事を返す。1日仕事になることもあり、どうしても作業が夜中に及んでしまう」。
なぜ、このような煩雑な作業が集中しているのか伺うと、クリエイターを募集・登録する「吉本お笑いタワー建設準備室」でのユーザー・ケアに骨が折れるとのこと。
「この建設準備室は、お笑いタワー構想のキモなんです。私はお笑いタワーを草の根式にやろうと思いました。選挙なんかで“勝手連”ってありまっしゃろ?あれですわ。大阪を中心にいろんな会社、表現力のある個人さんに、どんどん参加してや!と始めたんです。大阪は吉本発祥の地、お笑いの本場ですから、やっぱりお笑いに対しても思い入れが違う。いま、クチコミで参加希望者からの問い合わせが殺到しており、そのフォローが大変なんですわ」。

    草の根、しかも参加型

 上意下達方式ではなく、草の根式の広がり。20世紀のマスコミが上意下達方式なら、21世紀のWebは草の根式。なるほど、うまいところに目を付けたものですね。
「インターネットはテレビと違って“参加型”ということが最大の強みじゃないでしょうか。視聴者はネット上に意見を書き込んだり、ボタン一つで投票したり、芸人とのチャットなどいろんなことができますが、お笑いタワー建設準備室では、サイトづくり、お笑いネタづくり、おすすめリンク、なんでも“参加型”でいこか!っちゅう感じですわ」。
でも、単に参加するだけでなく、参加することで何かメリットがあるとお笑いの輪が、グッと加速して広がるかもしれませんね。
「私が描いているのもそこなんですわ。お笑いタワーを成功に導くことで、ご協力頂いた企業さんや個人さんにも仕事の場や発表の場をお返しし、ご恩返しできたらと念願しています。責任感もすごく感じています」。




 「吉本お笑いタワー」は次世代デジタルコンテンツの整備活性化をめざし、経済産業省の委託を受けた(財)デジタルコンテンツ協会が公募する、平成14年度コンテンツ制作基盤技術等開発事業に選定されたそうです。この補助支援を受けることで、コンテンツ市場活性化のモデルケースになることが期待されています。






    お笑いタワーのプロモーション方法は?

 着実にお笑いコンテンツが増えてきたとき、サイトの存在を広く世間に知ってもらうことも重要な課題になってくると思われますが。
「Webって面白いというか怖いというか、仮に華々しいプレゼント・キャンペーンをしても、内容が伴わなければ集まってくれたお客さんが二度と読みに来ないんです。じつに透明、じつに明快。ですから、お笑いタワーのプロモーションも読者の自己増殖に任せたいんです。もちろんメニューが増えたり、イベントを仕組んだりしたときは、マンスリーよしもとなどの雑誌で告知していきますが」。
コンテンツが増え人気が出るとビジネスの点でも大きな相乗効果が望めますね。
「まだ駆け出しサイトの分際で、ビジネスの話をするのも恐縮なんですが、BtoBの提携話やご提案はいつでもウェルカムです。例えば吉本興業の芸人、今後集まって頂く素人さんを問わず、ブロードバンドに使える楽しいコンテンツがいっぱいあるよ。それをプロバイダさんやポータルサイトを運営している企業さんなどに『どうぞ使ってください』と言えるようにしたいですね」。


    お笑いはなんちゅうても、大阪やで!

 政府もEジャパン構想で2005年に高速インターネットの整備完了をめざし、どんどん高速インフラの整備を進めています。いま、タネをまくことが先々の刈り取りのために必要なことですね。
「Webでお金を回収するためには、まだまだ課題がいっぱいあります。ビジネスモデルとしても、アマゾンのような物販でさえ、黒字化するのは並大抵ではありません。しかし、Webの向こう側には、お客さんが大勢きて、買い物をしてくれるという“幻想”がうごめいている。実際、あと3年もすればそうなっているかもしれない。そのために、今から準備していかなければなりません」。しかもお笑いタワーは、地元大阪を中心に底上げを狙っている。そこが地元の雄である吉本興業さんに期待する部分でもあります。
「当社も草の根的に大阪との連携を深めていきたいんです。こんなオモロイ奴がいてるで、とか、ウチはこんな技術、こんな人材がおるから提携してもらえんやろか、とか、どんどんアプローチ待ってます。いっしょに関西を面白く、元気にしていこやおまへんか!!」。


あのエンタテイメント優良企業・吉本興業でさえ、
現状の流通ルートである劇場、TV、ラジオに満足せず、
新しい回路を開こうとしています。
インターネット・コンテンツ展開はまだまだ始まったばかりですが、
いま、取り組むことに意義があるとお考えでした。

いつも新しいことを考え実行していく。
自社だけでなく、利益が共通する会社とはどんどん提携していく。
草の根式に新しい才能をどんどん受け入れる。
そのような進取の姿勢は、経営を預かる者として大いに学ぶところアリと見ました。



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